第一線

 かなり手こずっている現在の製品だが、ようやく金型発注が見えてきた。
 特に今回はメカリーダー兼設計主担当をやり、手下は3年目の若手と派遣一人だけだったので、「マネージメントも設計も新技術探索・評価も不具合対策も外部交渉も自分ひとり」という状態。 シール一枚に至るまで、どんな細かい部分の設計も人に任していない。そんな製品初めてやったわ。
 まぁつまり大変だったんですが、こんなとき「なんで設計なんか俺やってんだ?」と思う。どの部署いっても給料は同じなのに、労働量が明らかに多い。(購買や生産技術、知的財産なんて部署は比較的楽そうだ。隣の花が赤い効果もあるにはあるだろうが)
 で、自らの心のうちを眺めてみると。そこには「誇り」や「プライド」的なものが関係しているのを認めざるをえない。
 

 もともと、そういったステイタス的な、非金銭的な価値は大嫌いだ。「プレミア」「最高級」「VIP」・・・どれも多くは「快い」だけで有形の付加価値を生まない物で、判断を鈍らせ、割りの悪い行為に自らを駆り立てるキーワードだ。 むしろ、世間の人間がそういった物を気にして割高なものを買ったり、損をする選択をするのを笑い、自分は実を取った選択をするのが大好きだった。
 ところが、仕事なんていう大きなものでそんな無形のものに惑わされてしまっているとは。
 

 開発や設計をしている人間は分かってくれるだろうが、一般的な日本企業においては、エンジニアから他部署(生産技術や購買や知的財産)に行く人間はあっても、逆の例はほぼない。 また、開発部門から出て行く人間には、使えない人間だったり、年を取って無理がきかなくなったり、扱いづらくなったっりした人間が行く割合が多い。(開発に納まりきらない能力を発揮するために請われて出て行く人間もいるだろうが)
 なぜなら、基本忙しい職種なので、使えるエンジニアは部署が手放したがらないからだ。 つまり、「エンジニアとして働き続けている」事自体が、優れたエンジニアである証明となるわけだ。 そこが「誇り」な訳ですな。
 また、他の非金銭的な価値としては、「世間で売っている物を作り出す上流に自分がいる(俺が物つくってんだよ!)」という面白さや誇りみたいなものもあり、そこも惑わされるところだ。(まぁそのさらに上に商品企画なんてもんもあるんですが)
 うーん、この価値、一言で言うと「かっこいい」なんだな。メーカーにおける他の職種より「かっこいい」と思ってるんだ、俺は。我ながら、馬鹿だなぁ。
 

 さて、そこまで考えたところで、他の業界にも同じようなものがあるんだろうなと思った。
 医者の業界なんて、外科医なんてそういった「面白さ」や「プライド」的なもんがないと誰も選択しないんじゃないだろうか。開業しにくいし。 ドラマでも「医者モノ」といえばほとんど外科医でしょう。外から見ても一番「かっこいい」のは外科医だとおもうし、いわゆる花形なんじゃないかなぁやっぱり。でも、コンタクト医者とか保健所医者の方が、はるかに楽で割がいいんだよきっと。
 
 銀行とか商社等の文系職にも、わからないけどそういった「花形ゆえに割りが悪い職種」「金銭の伴わない過重労働と引き換えに、やりがいや誇りを得ている職種」があるんだろうなぁ。