甲斐性と物欲

 たびたび日記には書いたが、長らく高級腕時計が欲しかった。 具体的にはIWCのパイロット。

 結局 「数千円の電波時計に性能・機能が圧倒的に劣る物に数十万円を出す」という事に対する理性的なハードルを越えられず、買うには至らなかった訳ではあるが、それでも梅田のヨドバシに行くたびに2Fの時計コーナーに立ち寄っては 「いいなぁ・・・」 とガラスケースを眺めていた。

 我ながら未練たらしい。

 

 ところが最近。

 職場の異動があって、週に2日ぐらいグランフロントに通う事になったのだ。

 当然頻繁にヨドバシに寄ることになったのだが(そら寄るでしょう!)、時計コーナで足をとめない自分に気づいた。

 あれ、そういえば俺様、高級時計はもうそれほど欲しくない。10年以上ずーっとあこがれていたのに。

 

 何かきっかけだ? と内省してみるに、転職にともなって収入が激減したことが原因ではなかろうか、と思い当たった。

 ここで面白いのが、「収入が減ったから買うのを止めておこう」という判断を意識的にしたのでは無く、なんとなく高額な買い物を忌避する気持ちが働いて、同時に「高い物かってやんぜ」という欲がスポイルされてしまっているところ。 

 欲望自体が消失してしまっているので、我慢しているわけでは無いのです。 

 この心の働き、非常におもしろい。 この時計、おそらく今購入しても将来的な資金繰りに影響はほぼ無い。つまり、理論的には今でも昔と変わらず「欲しければ買える」代物だ。

 なのに、物欲の奴が「いやー薄給のボクなんかの身には過ぎたもんっすから」と勝手に縮こまってしまっている。 逆に言うと、転職前の比較的多めの収入を得ていた時は、自分も知らぬうちに「イケイケのウエーイモード」だったということだ。そこが我ながら非常に意外だった。

 以前、「持ち株の株価が上がると(換金していなくても)消費性向が高まる」という話を聞いて、「なんじゃそりゃ」と思っていたけれど、なんという事は無い。自分もそうだったという話だ。 

 たぶん、テストステロンとかその辺のホルモンが関連しているんだろうなぁ。血の気の多いお兄さん達も、わかりやすいブランド物とかキラキラした物とか好きだし。ふっとい金のネックレスとか。

 

 ということは、裏返しの「高級でキラキラしている物を身につけている人は、大物にみえる」 ていう機能も、人間にはビルトインされているはず。

 

 もし人間としての「押し出し」を小手先で身につけようとしたら、そういった物に頼るのも一つの手段なんだろうなぁ、きっと。 権力者や芸能人のオーラも、服装や持ち物の影響とは不可分だしなぁ。

 

 ちなみに、未だにポルシェは欲しいし、安い中古があれば真剣に買おうと思っている。 根本的な趣味趣向に根ざす欲望は、収入に影響されないのだな。 そらそうか。