投資の達人

だいぶ昔の話をふと思い出したので書く。

 

 前の会社の同僚が、不動産投資の話をしてくれた。おそらく40代中盤から後半ぐらいの方で、思えば今の私と同じぐらいの年頃だったろう。

 

 投資と言っても華々しく(でも胡散臭い)物では無く、彼のスタイルは 「自分が住んで土地勘のある駅の、駅前の土地・建物に投資する」 という地に足の付いた様子の物だった。

 駅も、乗降客が多く交通の便が良いところではなく、主要路線から乗り換えてさらに郊外に分け入って行ったところの、かなりしょぼい所だ(しかも普通しか止まらないい)。 具体的には神鉄鈴蘭台のあたりだったと思う。(しかもズバリ鈴蘭台ではなくその周辺の小さい駅だった様な・・・)

 そんな不人気な場所で、かつ当時は不動産ブームに本格的に火が付く前であった事から物件もかなりお手頃だったのだが、腐っても駅前、まぁそれなりにはテナントが入るのだという。

 で、そんな彼が最近手に入れた駐車場に問題が。 客付けは順調、しかし「招かれざる客」に困っていると。 一言で言ってしまうと 「駐車場の奥がたまり場になってまうねん」らしい。

 別に広い駐車場でもないので、昼間は駐車場の奥まで道からも容易に見通せる。しかし、駅至近とはいえど一本入った通りなので、田舎ゆえに外灯もまばらで夜は薄暗い。 ましてや駐車場の奥ともなれば、その乏しい外灯の光すら届かずかなり暗く見通しが悪くなってしまう。

 場所柄、少し夜遅くなれば人通りもかなり少ない。

 そういった人目の付かなさと、さりとて便利な場所ではあることが合いまって、はからずも素行の悪い若者達の居心地の良い場が形成されてしまった。 朝にはよく(駅前のコンビニで仕入れたのであろう)カップ麺や酒類のゴミが残されているといった有様。

 

 「・・・ほんまに腹たってな。でも自分で注意しにいって、変なことなってもイヤやん。それで思いついてん! めっちゃ明るくしたれ!と。」

 

 彼はネットで人感センサ付き外灯を捜索し、普通に手に入る物の中で最も明るいものをチョイス。

 駐車場の患部とも言えるたまり場となっている奥の部分に限定し、ステージの様に煌々と照らし上げることにより、不逞の輩の居心地を悪くすることを狙ったのだった。

 策士である。確かに薄暗い周囲の中でそこだけ不自然に明るければ、少ないとは言え道行く人からも非常に目立ってしまうので落ち着けないだろう。しかもセンサ付きというのも良い。目くらましの様にいきなり放たれる強烈な光は、腰を据えてしまう前の彼らの出鼻をくじき「なんや眩しいな。他の所にしよか」という流れが期待できよう。

 

 しかし、彼の戦いはそれで終わらなかった。

 そのセンサ付きスポットライトの設置により、若者集団はいなくなったのだが、別の不逞の輩が出てきてしまったという。

 「若い女の人が夜、道あるいてるやん? そしたら、車の隙間から変な奴が飛び出してくんねんて。パッとライトがつくやん。そしたら股間を見せびらかして、逃げていくらしいねん。 ちょっとだけ奥まってるから追いかけられても逃げやすい距離は保ちつつ、でもライトでめっちゃ目立つからしっかり見せられる塩梅が、凄い都合がええらしい。・・・困るわぁ・・」

 

 暗い夜道に唐突に咲く、1:1のゲリラ・ステージ。

 そう書くと美女と野獣オペラ座の怪人の様なロマンティックさも感じさせるのだが、地主としては苦り切っており、彼はこう呟くのだった。

 

 「不動産投資は素人には難しいっていうのは、こういう事をいうんやなぁ・・・」

 

 たぶん違うと思う。

 

 ちなみにその方は、お子さんがいらっしゃらず身軽だった事もあり、それから2,3年して退職してしまいました。

 「淡路島にめっちゃ安い別荘あるねん。前のオーナーが自殺して。買おうかな・・」とか言っておられましたが、お元気でしょうか。