それが日本人というもの

 先行技術を追いかけるのが得意で定評のある日本人。スマートフォン業界ではどうなのかなと思っていた。
 なぜなら、先行するiPhoneは、デザインや質感のためにかなり特殊な作り方をしているから、同じものをつくるのは大変だから。
 そう、iPhoneはすごい。あの構造は、本来大量生産されるべきものではないと個人的には思う。日本のメーカーだったら1年目の新人でもあんな設計はしない。(できると思ってんのかよ!と怒られてしまう)
 アルミのブロックを削りだし(しかも多自由度のマシニングセンタや特殊な工具が必要な形状で)だなんて、カスタムの一品モノでもなかなか手が出ない。コスト度外視すぎる。 スパイの小道具か高級機械時計クラスの力技の加工だと思う。 
 それを、バカみたいな数量産してしまう凄さ。それは技術力の凄さではなく、「人件費の安い国に、大量のNC加工機で24h作らせ、コストを下げる。むちゃくちゃな初期コストは、むちゃくちゃな量を売ることでペイさせる」という力技の凄さだ。
 それは言い換えれば、「デザイン最優先」のコンセプトの元に、そういう戦略を考え、実際に実行してしまった熱意や政治力、意思決定力の凄さに他ならない。「これが本当の『最優先』ってもんだろ?」という叫びが聞こえてくるようだ。
 もしも数年前、日本の大手企業でiPhoneの企画が社内ででたとして、Goを出せる度胸のあるところがあっただろうか。絶対にない。 自前であんなことやって失敗したら、完全に会社が傾く。
 また、そこまでコストをかける理由が、「かっこいいから」に過ぎないのだから、「そこまでしなくても良いだろう」という判断が絶対に入る。
 アルミの削り出しボディは、おそらく金属プレスになり、バッテリは交換できるようになり(その代わり無粋なバッテリーカバーの線が背面に見える)、ボタン類の金属パーツは、成型品のめっきか塗装になる。
 一つ一つは素人には分からないコストダウンや他の機能のための譲歩なんだけど、全体としては「ありきたりの家電」のボケた印象になってしまう。コストは下がるが、同時にデザイン面ではバカ売れもしないだろう。
 反面、iPhoneは細部にまで手を緩めないことで、高級腕時計と同じクラスのオーラをまとうことに成功している。本当に凄いと思う。
 

 で、話は戻って、後追いの日本勢がスマホにどんな作り方をしているのかが気になっていたのだが、先日、同僚のソニエリのものを手に取る機会があり、いろいろいじってみた。
 ・・・・やっぱり家電らしい作り方でした。いや、技術力や設計力は凄いと思うんです。
 ただ、「仕様も省けない」「コストもかけられない」「いままでどおりの製造法しか許されない」と言う制約の中だと、横並びの「家電の作法」から全然逸脱できない。だから、ちょっと畑の違う設計者の自分でも、大体構造やコスト、製法が分かってしまう。 
 なんていうか、「リスクを取らず差別化できない経営のなか、現場はがんばる」という、大戦中から変わらない昔ながらの日本の枠組みを感じてしまった。
 それが良くも悪くも日本人なんだろうなぁ。