ホームシック

 私は生まれてから大学院を出るまで、神戸の外に住んだことが無かった。きわめてドメスティックな人間だったと言っていい。
 しかし大学時代、車というアイテムを手に入れてしまい、私の家系に脈々と流れている放浪者の血と相まって、いろんなところに行きまくった。
 近所のコンビニに行く様な感覚で、日本海を見に行ったり長野の友人の下宿にガラクタを投函しにいったりした。安いという理由で、岡山や和歌山に良くガソリンを入れに行ってたのもこの頃。(帰ってくると減ってるから全然トクじゃなかった。馬鹿だったと思う。)
 いったん乗ると、300キロとか、5時間ぐらいは普通に運転していた。10時間なんてのもザラだった。京都議定書? なにそれ知らん知らん。くえるの?
 と言うわけで、日本(少なくとも関西〜関東ぐらい)は狭いということを肌で知ってしまっているので、社会人になって東京に出てきた時も、遠いところに来たとかそういう気持ちは感じたことが無かった。
 だって、たとえそれが夜中であろうと、「あ、ちょっと実家帰ろ。」って思ったら、7時間後にはそこに着くのだから。週末でも帰ってこれるし、なんだったら仕事終わってから出れば夜中には着く。
 つまり、私にとって神戸に帰る事は、「休日に新宿に遊びに行く」とか「平日半休とって八王子の銀行に行く」程度のことだった。
 実際、中央線を都区内に向かって乗った回数より、中央道を関西に向かって走った回数の方がはるかに多いし。
 こういう有様なんで、正直ホームシックなんかこれっぽっちも感じたことが無かった。
 いや、近所やん、すぐそこやん、みたいな。