読書感想文

 開戦から半年は、いかに日本がイケイケだったかが凄く良く分かった。
 優秀な兵隊と優秀な兵器により、電撃のように領土を広げている。しかしそれを過ぎると手のひらを返したように戦局が悪化。理由はいろいろ。広げすぎた前線、それによる戦力の分散と補給の不備、兵隊の消耗による錬度低下、兵器が質・量ともにレベルが下がっていったこと・・・。
 でもつくづく思ったことは、莫大な犠牲の大半は人災によると言う所だ。大きな所では、開戦から1年が過ぎ、敗色が濃厚になってからでも3年も戦争を続けたこと。
 戦争の4年を、一日(8時間)パチンコにでも行ったと考えると、どれほど馬鹿げているか良くわかる。
 朝9時に戦争を始めて10時まではイケイケ(ドル箱積み上げ状態)だったが、11時頃には一転かなり負けが込こんでしまった。やめればいいのにさらに12時頃までやって、もはや取り返しのつかないぐらいに負けてしまった。普通はそこで帰るのに、日本の場合はそこからサラ金に行って金を借り、さらに夕方5時まで負けに負けを重ねて傷口を大きく広げてしまった。
 戦争(もしくはパチンコ)の勝ち負けはある種水物なので、やってみるまではわからない部分もあると思うが、完全にもう挽回できないところまで来て、さらにズルズルとそれを続けたのは明らかに人災だ。
 それともう一つ思ったことは、日本人の兵隊はとてもとても優秀だということ。しかし戦略は弱いと言うこと。戦略とは、「勝つべくして勝つ状態を、前もって用意すること」だと思う。しかし、そもそもそういう思想がない。そこが、馬鹿みたいに「勝つ態勢づくり」にこだわるアメリカととても対照的だ。
 上層部は「どうしていいかは良くわかんないけど、勝たなきゃいかんから死ぬまでがんばれ」と言うし、優秀で従順な末端の兵隊は「どうしていいかは良くわかんないけど、死ぬまでがんばるっス」となり、目の前の困難な目標に死ぬまでかじりつく。そして恐ろしいことに、勢いのある時はそれでなんとかなってしまう。
 でも無理に無理を重ね、優秀な兵隊が死んで減り、兵器も少なくなってきた時には、その無理が効かなくなって加速度的に負けが込んでいく。そうすると上層部は「とにかくもっとがんばれ」と言う。兵隊はとにかく頑張る。そして効率良く死んでいく・・・。そう、これも人災だ。
 恐ろしいことだ。なにが恐ろしいって、この構図に「思い当たるフシ」が物凄くあるということだ。
 現実を見ないで無茶な目標だけ掲げる上層部、そして勝ち目がないことに気付きつつも従順に従う構成員(しかし彼らは無能なわけではなく、目先の仕事を処理するにはとても有能)。そんな風景、日本中の会社で今現在いくらでも目にすることが出来るだろう。
 「日本人は二度とあんな悲惨な戦争を起こさない」と良く聞くが、同じ状況に今の日本人がおかれたら、確実に同じことを繰り返すと思う。そして過去と同じように、末端の構成員の良心による歯止めはまず無いだろう。「おかしい」と思うことに「おかしい」と大声で言わない文化は変わっていない様だから。
 特に、役所や各種窓口、警察等で、ただ「規則ですから」と譲らない態度に出会うと、こいつらは戦争中や北朝鮮にいても、自分のしていることに疑問を持たずに同じ事を言うんだろうなと思ってぞっとする。
 少なくとも、今会社で「とにかく頑張れ」と言っているのと同程度の能力の人間が、戦時には「とにかく頑張って死んで来い」と合法的に命じることが出来る訳である。
 それだけでも、戦争がどんなに恐ろしいか分かるってもんだね。
 ま、だから何をするってワケじゃないんだけどね。だって、俺エンジニアだし。(エンジニアは前線送りはあまり無い)