確率は本能にウソをつく

 ある本で読んだ、「人間は確率を直感的に把握出来ない」という話。


 筆者(アメリカ人)が生命保険の加入の折、HIVの検査を受けたときのこと。医者に「検査の結果、あなたは99.9%の確率でHIVポジティブです。検査がミスである可能性は1/1000なので。」と告げられた。 
 が、筆者はそれを聞いて自分がHIVに感染している確率が「低い」ことを知り、安心したという。
 とても違和感を感じませんか? 種明かしは以下の通り。(分かりにくい話なので、ざっと読んで欲しい)
 筆者は、統計的に「同性愛者でも麻薬中毒者でもない白人男性がHIVポジティブの確率は10万人に1人」ということを知っていた。
 ということはつまり、10万人の白人男性が検査をしたら、本当のHIV保有者はたった1人なのに、のこりの人間から100人も偽の陽性判定がでてしまう。(検査の精度は「たった」99.9%なので、10万人いたら・・ということ)
 すなわち、「検査で陽性とでた白人男性」の場合、真にHIVのキャリアなのは、101人に1人ということだ。
 説明されても何だか騙されたような気になりませんか? 確率的には正しいストーリーなのに、直感が追いつかないんですよ。 「え、だって99.9%正しい検査なのに・・・」って。
 筆者は「医者は、『ネガティブの人間が、検査で陽性になる確率』と、『検査が陽性の人間が、ネガティブである確率』を混同しているのだ」とか書いているけど、いよいよわからんっちゅーねん!


 で。これは物凄く大事な話だと思ったので、もっと分かりやすい例はないか考えてみました。
 ありました。

 
 例えば。 あなたが宝くじを1枚だけ買ったとします。やがて抽選の日が来て新聞を見ますが、偶然その部分が汚れていて、番号が下3ケタしか確認できません。 が、なんと!!! あなたのくじは一等と下3桁が全く同じでした!!!! もうこれは一等を獲ったも同然でしょうか!?
 ・・・・・・・違いますね。 これなら本能的に分かる。
 一等とあなたのくじの番号の、下3桁が同じになる確率は1000分の1です。逆に言うと、下3桁は99.9%外れます。それが当たるってことは、もう相当稀有な情況です。 
 しかしだからといって、下3桁が1等と同じだったあなたの宝くじが、実際に1等をものにする確率は99.9%では「ない」。他に何枚宝くじが発行されているかに完全に依存します。
 これ、宝くじが本当に1等を獲っている状態を「真にHIV保有者である」状態と読み変え、下3桁が一等と合致した状態を「検査で陽性がでた状態」と考えると、同じ構図なんです。 


 もう一つ他の例。凶悪犯罪が起き、遺留物から犯人のDNAが検出されました。で、容疑者の遺伝子検査(99.999%正しい。つまり10万回に一回しか間違えない)を行ったら、ビンゴ!同じDNAと出ました。さぁ我々はもう裁判をすっとばして容疑者の首にヒモをかけるべきでしょうか?(彼は99.999%犯人でしょうか?)
 実はちがいます。この容疑者が、「他に何の証拠も無いんだけど、検問で適当につかまえて遺伝子検査しただけ」の不幸な人間だったら? 100万人もいる都市なら、その「99.999%正しい」DNA検査に(濡れ衣なのに)ひっかかる不幸な奴が10人は存在するからです。真犯人は1人なのに。 
 危なくて怖い話だと思う。こんな検査、「絶対にこの中に犯人がいる」集団が絞り込めてないと、意味が無いし、冤罪発生システムになる危険性があるということだ。だってこれ、アメリカの陪審員とかなら、検察に証拠として出されたら見抜けるだろうか。
 

この「本能を騙そうとする確率」の話、頭のかたすみに止めておけばいつか役に立つような気がするので、紹介してみました。