人事小論

 もうすっかり珍しくなくなった早期退職制度。 「役に立たない高年齢層を追い出して、筋肉質な組織にする」という、パナとかが良くやっているアレ。

 個人的には、これに手を出す様な会社はもう死に体だと思っている。三つの理由で。

 

 ひとつは、良くある「転職できる有能なヤツから辞めていき、本来のターゲットである役立たずは行き場が無くて会社にしがみつくから」という物だ。 筋肉質な組織が聞いてあきれる。

 二つ目もよく言われることだが、組織運営に支障が出ること。 多くの日本企業は、程度はあれど「年をとって役にたたなくなっても待遇はかえないよ~」という暗黙の了解と引き替えに、中堅世代までに「業務量の割に安い給料や、スキルアップに繋がらない業務」を我慢させる制度設計である場合が多い。終身雇用の名残りというやつですな。

 それなのに早期退職という、いわば「いや、これからは役にたたんようになったらポイですわ」という宣言をされたら、「給料に見合わない激務」や「大事だけど社内でしか役に立たない業務」に身が入ろうハズが無い。 すぐに「若手のやる気が無い」とか「縁の下的な業務が倦厭される」といった症状として問題が露見する。

 

 三つ目は、「そもそも必要な施策はそれじゃないですよね」という物だ。 

 本来、会社を筋肉質にするには、「使えないやつを、能力に見合う給料にまで下げる」 これだけでいい。 別に辞めさせる必要はない。 当然、「昔より使えなくなったお年寄り」の給料も下げる。 

 安い給料や傷ついた自尊心に耐えられなくなったヤツは勝手に辞めていくので、早期退職制度などという不要な追い銭をしなくて良いどころか、多くの企業では今既にある人事制度を変更する必要さえも無い。そしてそうやって発生した人件費の余裕で「出来る奴」や「縁の下の頑張り屋さん」の給料を上げればモチベーションの維持もできるという物だ。

 なんて当たり前で簡単なことだろうか。そして・・・・なんと難しいことだろうか。

 実際の肉体に言い換えてみれば、「痩せて筋肉質になりたい」という人に、「食事を節制して運動すればいいですよ」と言うような物だ。 言うは易し、である。 しかし、「その『当たり前』以外の方法は副作用が大きい」というのもまた同様。

 生活習慣を変えぬまま、脂肪吸引やヤセ薬という飛び道具で「劇的に痩せた」としても、それは本来目指した肉体でも維持可能な物でもないだろう。一定期間経過した後、「これだったら何もしない方が良かった」とはなる可能性は非常に高い。 

 でも、ダメな人(組織)ほどそういうのに手を出しちゃうし、逆に、まともな人(組織)は最初からそこまで追い込まれない、のだ。

 

 などと常日頃から考えているので、「○○が早期退職制度」などと聞くと、「あぁ、あそこもダメだのかぁ」と思ってがっかりしてしまうのだった。