働きもの

 その昔、毎晩車に乗っては意味も無く遠出し、ガソリンをせっせと無駄に燃やしていたある日のこと。
 日本海でも見に行くかぁ、と思い立ち、なにげに向かった天橋立の手前で、玄武洞という観光地に立ち寄った。もちろん真夜中。たぶん3時とか、4時とか。
 ついでに公衆トイレにいこうと、(外灯なんかもちろん消えているので)懐中電灯で足元を照らしながら歩いていると、何か地面を動く小さな物が。アリだ。
 え、こんな夜に?と思ってしゃがんで観察してみたが、ちょっとしたコンクリの段差に沿って、大きなアリが行列を作ってせっせと何か運んでいる。昼間と同じように。
 はぁ〜、この人たち夜も働いてるんだ、偉いなぁ、といたく感心した。
 それがきっかけとなって、私は別人のように勉学に精を出すように・・・・とはならなかったんだけども。
 20年たった今でさえ鮮烈に憶えているとは、キリギリス生活をしている我が身に余程やましさを感じたと思われる。 

 
 そうして今年の夏。
 子供(大)が、「アリの観察セットが欲しい」と言い出した。
 まぁええぇけど、と思って調べたら、今は便利なものがあるらしい。
 土のかわりに固めのゼリーを入れておくのだが、透明なので観察しやすいのはもちろんのこと、ゼリー自体に栄養があるので、アリ以外には餌や水も不要だという。さっそく購入。
 ゼリーは付属の粉をお湯で溶いて固める物だったが、うまく出来た。(アマゾンのコメントに「出来たゼリーがゆるくてアリが全部沈んでしまいました」という無残なものがあり、かなり分量に注意して作ったが。)
 さっそくアリ投入。
 
 アリによってはなかなか掘ってくれないらしいが、岡山のアリはじっとしていられないのかあきらめが良いのか知らないが、わりとすぐに掘り出してくれた。

 で、夏休みが終わって観察セットごと神戸に連れて帰ってきたのだが、やっぱりいつみても休んでいない。 まさに働きアリの様に働いている。
 こちらが仕事から帰った深夜も、何かの用事で早起きした朝も、常時せわしなく行ったり来たりしている。
 そんな彼らに、冒頭の事を思い出しました次第です。