イタイ研究室の卒論発表の様に

 発表の内容は普通。あーそんな研究やってるのね、ふーんって感じ。
 いや、実際には、彼は1ミリも手も頭も動かしていなくて、派遣さんが作ったデータ類をパワーポイントに貼り付けただけだが。だって「ミーティングに出る」それだけが仕事の人だから。
 面白かったのは、その後の質疑応答。
「これをどのように市場投入していくんでしょうか。ターゲットは?」
「とくに考えていません・・・・」
「その方法は、競合他社に対してどんなアドバンテージがあるんでしょうか」
「特にありません(キッパリ)」
「いや、コストとか、速度とかでなにか他社に勝っているポイントは無いんですか?」
「現状もっと優れたものが他社から製品で出ています」
「・・・先ほどの発表では、今後さらに性能の向上を目指すとありましたが、そうなった場合の他社に対する勝ち目だとかは・・・?」
「さっきはああ言いましたが、個人的には、根本から今のやり方を変えないと、性能の向上は出来ないんじゃないかなぁと思っています」
「じゃぁなんのためにやってるんですか?」
「いやぁ、やっている途中でなにか得るものがあるんじゃないかと考えています」
 もうこの時にはかなり室内は騒然。みんなそのプロジェクトが怪しいことは知っていたのだが、それほどまでとは思っていなかったのだろう。
 しかし、こんな見込みの無い物に常時4人もの人間が貼り付いているんだから、うちの部署は余裕あるもんだ。
 大赤字ぶっこいて「緊急事態宣言! 真に価値創造力のある物を徹底選別し、資源を集中せよ!」とかいってる同じ会社とは思えない。
 そう言えば前述のT氏は、茶のみ場で雑談している時に「あんな事続けてても、他社に勝ち目全然ないじゃないですか。意味ないですよ」と言われて、「そんな事言ってたらキミ、ボクたち仕事なくなるで」と主張してたなぁ。大方それが本音だろう。
 個人的には、大事な金と、もっと大事な自分と他人の人生をドブに捨て続ける作業は、仕事とは言わないと思うけど。