総論

 彼の言っている事すべてが間違っている、とは思わない。 
 それに確かに彼は口がたつ。行動力も、説得力も押し出しもある。エネルギッシュだ。
 不幸な問題は二つだけだ。
 彼に実務家の面が全く欠けていることと、そんなタイプの人間を(実績を上げていなくても)ポンポンと昇進させてしまうこの会社の体質だ。
 中身の詰まったプロジェクトを、一歩一歩立ち上げていくという経験を、彼が今まで積む事が出来なかったのは、本当に残念なことだ。
 有能なリーダーになり得たかもしれないのに、不幸にも口八丁でここまで来れてしまったが為に、彼は迷惑と非効率を撒き散らす勘違い上司になってしまった。
 そう、部下には蛇蝎のごとく嫌われている彼だが、俺は彼がそう憎めないのだった。
 今までにコイツのせいで、もの凄い量の俺の工数がドブに捨てられてるけどな!

 とりあえず、「なんか言いたいことある?」と聞かれたので、
「今は、俺達が会議をしても何も決まらない。なぜなら、そこは『どこを狙っていくか』という目標が定まっていないからであり、それはアナタが意思決定しないと決まらない部分だからだ。だから、今度そういうことを話し合う会議があったら、アナタを呼ぶ。必ず出席して、高らかに『コレで行くんだ!』と宣言してくれ。」
と言っておきました。