英才教育

 前にも書いたが、私は腐った食物が得意だ。といっても好んで食べるとかではなく、判別に長けているというもの。
 肉、魚、野菜、穀物、そして水。膨大な食物の「腐った風味ライブラリ」が脳内にあり、口にした物が少しでも腐っていると、即座にパターンマッチが行われ、アラームを発令する。
 そして速やかにリスク分析が行われ、「ガマンできる範囲内だからそのまま食う」か「吐き出す」かの判断が下される。
 このライブラリ、実は母のおかげで形づくられた。 母は、「村で2番目に貧乏な家(自称)」で育ったせいか、少々腐りかけていたからといってカンタンには食物を捨てない。
 「これくらいだったら死なない」とひとたびジャッジすれば、かなりの危険牌や暴牌を、雀卓ならぬ食卓に繰り出してくる。
 子供たちが「おかん、これ・・・くさって・・」などと異を唱えようとも、いったん大丈夫判断を下した母は限りなく強気だ。「あんたら、そんなことばっかり言うて! えぇ肉はそういう味すんねん!! 黙って食べ!!」とキレだす始末だ。
 結局、子供が信じられるものは自分自身の舌しかない。そんな生活を続けるうち、「どんな物も変な味がすれば喰わない」「大丈夫と思ったら喰う」「物は腐って当たり前。腐ったものに動じない」という境地に至った。 
 同時に、潤沢な「腐った風味ライブラリ」も得た。 
 あなた知ってますか、松茸の腐った味を。 腐るんですよ、あれ。普通は腐る前に食べますけど。
 (オヤジが中央市場で大量の「輸送中に水をかぶって腐った松茸」を捨て値で入手してきたので、その時に憶えた。 菌のくせに腐るんやねぇ・・・)